◇おまけ◇
九月も終盤に入って、朝のうちはもうすっかりと爽やかな風の吹く、めっきりと秋めいた気候へ移りつつある模様。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「すっかりと秋めいて来ましたね。」
まだまだ緑のほうが多い梢の下を、優雅に語らいながら登校してくるお嬢様たちは、その存在自体が何とも爽やかで。休みの間に軽井沢まで行っておりましたが、あちらはもう風も冷ややかで。そうそう、キンモクセイも香り始めていて。何だか急すぎて面食らってしまいますわねという、何とも情緒的で優しい会話が交わされており。この世代にありがちな、多少は端迷惑なキャッキャという歓声が鳴り響かない辺りは、さすがお嬢様学校というところか。そんな中、
「おはよう、久蔵殿。」
「おはよ、久蔵vv」
「……。(頷)」
白百合、紅バラ、ひなげしという可憐な花の名を、在校生たちからこっそり冠された名物三人娘たちもまた、何事もなかったかのように朗らかなお顔でご挨拶を交わしており。秋の風をそうと呼ぶ金風そのもののような、清楚ながらも華やかな若々しさに満たされた、それは爽やかで優美な笑顔や。軽やかな足取りや優雅な所作には、周囲に居合わせた少女らも夢見心地で見ほれるばかり。まさかに こんな年端もゆかぬ少女らが、大活劇や大冒険をこなして来ただなんて、一体誰が信じようか。そして……、
◇◇
慌ただしかった19日が明けた翌日の20日も、久蔵は わざわざ三木邸までやって来た警察関係の方々を相手の、聞き取り調査や何やへ掛かり切りとなってしまったため。休みに入る前に約束していた“皆で集まりましょうね”というワケにはいかなくなったのだが。
「まあ、仕方がないですよ。」
その辺りは、七郎次も平八も納得済み。聴取の方はほんの小一時間で済んだそうだが、久蔵のご両親が…それは心配なさった反動からか、お仕事の予定を大幅に変えまでして、昨日は1日中 彼女の傍らに居て下さったそうで。母上特製のシュークリームは今でも時々食べる機会があるが、父上が腕を振るったハンバーグは本当に何年振りかで食べたと。日頃はたいそう寡黙な彼女でも、これだけは話したくてしょうがなかったか。こしょこしょ語ってくれたのが何ともかあいらしくって。それは良かったですねと、聞いたこちらまでがほんわかと胸元暖められたものの、
「……それと。」
屋敷の周辺に、見慣れぬ車が停まっていたりもしたものだから。そうと付け足された久蔵からの言いようへは、ほほぉとひなげしさんの眉が微妙に吊り上がる。彼女が未成年だということと、表面的にはさほどの騒ぎでもなかったため、マスコミからの取材もないまま、今のところは世間への公表も控えられているものの。何も起きなかった訳じゃなし、もしも問い合わせがあったなら、刑事事件としての起訴を構えている以上、様々な事実を明らかにすることを求められもするだろうからで。
「あれがどうにも納得行かないのは、
どうして被害者の側の情報はどんどん公表されるんでしょうかね。」
例えば、少年法で容疑者が未成年者だった場合はその人権が守られているのは…まま様々に論もあるからあれこれ言わないが。殺されたとか意識不明の重体になったとか、大変な目に遭っている被害者の情報を、どうしてまた斟酌なく聞きかじり、しかもしかも全国ネットに乗っけて垂れ流すマスコミなんでしょうかねと。憤懣からだろ口許を曲げた平八だったが、ままそれはともかくと七郎次が宥めてやっておれば、
「………ヒョーゴに褒められた。///////」
「ええ?」
「それはまた意外な。」
こらこらヘイさんと、まずは真横で唐突なリアクションをした平八の方を、メッと窘めた白百合さんへ。だってあの唐変木がって思うじゃないですかと、赤毛のひなげしさんの追及は容赦がなくて。やっぱりお弁当を広げてのランチタイムとあって、串団子を模してかピックに刺されたうずら玉子と輪切りの塩もみキュウリを振り回しつつ、
「空気が読めないまま ただただ久蔵を叱ってたのなら、
絶対報復してやろうって思ってましたのに。」
…などと。聞きようによっちゃあ随分と穏やかならぬ言いようをする平八なのへ。冗談だと判っておればこそ、目許を微かに細め、くすすと小さく微笑った紅バラ様が、その頬をかすかに染めたのは。
『勇敢にも立ち向かって乱闘や何やで切り抜けようとせず、
ホテルや神田くんへ迷惑や負担を掛けぬよう、
なるだけ穏便にと構えて逃げの一手を打ったのは、
随分と進歩したぞ。』
従業員へ匿ってほしいと頼るとか、警察に通報するという手立てもなくはなかったが、そうなれば多少は 揉み合いになったり騒ぎが大きくなったりしかねなかったし。何より、そこまでの丸投げはさすがに選択肢にはなかったらしいことは、本人へ訊かずとも察した兵庫せんせえであったらしく。
“あの、元幇間や元工兵が一緒だと、
いわゆる相乗効果から、
過激な手に打って出る展開と
なってしまうのかも知れぬしな。”
三人寄ればなんとやらの 行動派Ver.とでも言いたかったらしい兵庫さんだったかどうかはさておいて。久蔵も大好きなきれいな手をこちらの頭に乗っけて、よしよしと撫でてもらったのが、久し振りだったこともありそりゃあ嬉しかったと……いや、さすがにそこまでは、この彼女らが相手でも言うわけには行かない紅バラ様だったりし。そんな彼女が緋色の口許をうにむにとたわませているのだけで、もう半分くらいはバレバレなのは、逆に七郎次らからの見て見ぬ振りであるのだが…。
「で?」
「何ですか? あ、そうそう。
学園祭の打ち合わせ、
そろそろ一緒に練習しませんかって、あいちゃんが。」
今日はのり巻きだったのを器用に塗り箸の先で摘まんだまま、思い当たりをそうと応じた七郎次へ、ふりふりふりとかぶりを振った久蔵が重ねて訊いたのは、
「話が途中だったろ。」
「はい?」
「土曜の出会い、島田と ナニがあった?」
「な…っ。///////」
ヘイさんたらもうっ! なんで今、わたしにお鉢が回ってくるんですよう…と。なかなかに賑やかで華やかなお声が、秋のお空へ駆け上がったところで、こたびのお話は幕ということで。
〜Fine〜 10.09.09.〜09.21.
*ここだけの話、
神田利一郎さんは、一応 利吉さんベースで書きました。
まんまで使うと、どういう性格の人かが
あまりに早い段階でばればれになるかと思っての
微妙な改名でしたが…別に利吉さんだって枠は要らなかったかな?
結果、オリキャラも同然でしたね、すいません。
ともあれ、
久蔵お嬢様がよその男性へ頼ってたのへ、
多少なりとも焦りを感じた兵庫さんだったなら。
今後は“親戚の女の子”以上の対象として
少しでいいから意識してくれたらいんですが。
……う〜ん、人騒がせをやめない限りは、
難しい話かな?(あははは)
*そして、今回のお話の隠れテーマは、
一部の方にはお待たせしましたの、良親殿の登場でございました。
標準語で話しておりますし、
確か“錦秋宴”とかいう酒造会社の社長だったはずが、
ブライダルチェーンの総帥の息子で本人もデザイナー?
………な彼でして。
実際のところ、関西弁にするかどうかはまだ検討中でございます。
そうそうあちこちリンクさせると、何かややこしくなりそうで。
と言いつつ、
島田さんチの次男坊はあちこちでリンクしまくっとりますが。(笑)
寡黙な彼なんで、不思議だなと思っても外へ漏らさないしと、
そんな魂胆が最初からあった訳じゃあないのだけれど…。
めーるふぉーむvv 


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